2017年11月15日 更新

電通過労死事件で注目される「残業時間の上限設定」 私たちの「働き方」は変わるのか?

大手広告代理店「電通」に勤務していた高橋まつりさん(当時24歳)が過労を苦に自殺した。入社1年目の若手社員の過労自殺。同様の境遇にある若手会社員にとっては衝撃的なニュースであっただろう。奇しくも安倍総理が「働き方改革」において「残業時間の上限設定」をテーマに掲げた最中の事件であった。この記事では、「残業時間の上限設定」で何が変わるのか、詳しく解説する。

現在は実質、残業時間に上限はない!

画像素材 - PIXTA(ピクスタ)

「残業時間の上限設定」について解説する前に、現在の日本の残業時間について知っておこう。企業が従業員を残業させるためには、企業と従業員代表者が三六協定を締結し、労働基準監督署に届け出なければならない。このときの残業時間の上限は「月45時間」「年360時間」である。

ちなみに、電通で過労死した高橋さんの残業時間は10月が130時間、11月が99時間。「月45時間」というリミットを大幅に超過している。

特別条項付き三六協定の存在が過労死を呼び込む

なぜこんなことが起こるのか?
その背景には、「特別条項」付き三六協定がある。「特別条項」は、文字通り特別なもので、労働基準法では「臨時的に、限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合には、従来の限度時間を超える一定の時間を延長時間とすることができる」と定めている。納期が迫っている、クレーム対応、機械トラブルなどが“特別の事情”の例として挙げられる。

この特別条項付き三六協定を締結すれば、「月60時間」「年420時間」まで残業時間を延長できる。高橋さんの残業時間は、この時間をはるかに超過しているが実はそれでも問題は起きない。というのも、「延長できる残業時間を短くするよう努める」とのみ記述しているからだ。つまり、残業時間の上限設定は「努力義務」なのである。

長時間労働に起因する労災認定が増加

今回、高橋さんは過労死として労災認定されたわけだが、その背景には厚生労働省の「脳血管疾患及び虚血性心疾患の認定基準」があった。それは、100時間超または2~6か月にわたり概ね80時間超の残業を行った場合、業務と過労死の因果関係が強いと認めたものだ。

少し古いデータになるが、2012年の長時間労働に起因する労災認定は475件(前年度比150件増)。運輸業や医療・福祉、製造業での労災認定が目立つ。

長時間労働にセクシュアルハラスメントやパワーハラスメントによる圧力も加わることで、精神のバランスを崩す従業員も多い。

残業時間に上限設定を設けることは可能か?

現状の法体制では、残業時間に上限を設定できない。企業が独自に残業時間をコントロールするよう期待するしかないだろう。

残業時間に上限を設けることができれば、高橋さんのような過労自殺を防げるかもしれない。しかし、企業は営利を追求する存在。あまり期待できそうにない。

政府は「残業時間の上限設定」に向けて労働基準法などの改正を目論んでいるが、経済界からの反発も予想される。というのも、従業員を思うように残業させられないとなれば、場合によっては企業収益の低落を招く可能性もあるからだ。

もし残業時間に上限が設定されたらどうなる?

労働基準法などが改正され、残業時間に上限ができた場合、私たちの「働き方」はどのように変わるだろうか。

まず意識改革を迫られることになるだろう。時間生産性の向上が喫緊の課題となる。職場によっては、「ダラダラ残業」「付き合い残業」が恒例化しているケースもある。こうした残業は今後一切できなくなる。

仕事のやり方も変えざるをえないだろう。就業時間内で終えられるよう仲間と仕事を分け合ったり、ITを駆使して効率的に仕事を進める必要に迫られるはずだ。その結果、生産性が向上すれば、余暇時間が増える可能性もある。つまり、「仕事のやり方」そのものを変えなければならない。

だがここで従業員個人にとって問題が生じる。残業が減ることにより、収入が減少するという問題だ。残業があるからこそ、それなりの収入になっているという人は収入減を覚悟しなければならない。しかし心配はいらない。余暇時間を副業にあてて自分で稼げばよいのである。

単に残業時間に上限を設定しても意味はない。残業時間をコントロールするには、「仕事量そのものを減らす」「生産性を向上させる」「人を投入する」の3パターンしかないからだ。

仕事量が減らない場合、「持ち帰り残業」が常態化する

実は、残業時間に上限を設定している会社は現状でも多数存在している。しかし、それが有効に機能しているかといえば必ずしもそうとも言えない。

筆者の知る大手企業は22時に消灯するため、従業員は仕事が残っていても帰らざるを得ない。仕事が終わっていない従業員は、帰宅後、自宅で仕事をこなす。このような状態では、「残業時間の上限設定」など意味のないものだろう。

「残業時間の上限設定」は生産性の向上が伴ってこそ機能する

残業時間に上限があれば、残業は減らせるという考え方は危険だ。上述のように「持ち帰り残業」が常態化するケースもあるからだ。

「残業時間の上限設定」をうまく機能させるためには、「生産性の向上」に伴う従業員の意識改革が最も重要だ。仕事のムダ、ムラを洗い出し、徹底的に見直す、そんな根気強い作業が求められている。

残業時間が減れば、従業員にとっては余暇時間が増えるため、ワークライフバランスを保つことにつながるだろう。余暇時間を趣味や副業にあてることも可能になる。

確かに残業が減ることにより、収入減となるケースもあるだろう。しかしモノは考えよう、自由時間を有意義に過ごそうと思えれば、さまざまな発想が湧くもの。人生を有意義にするための時間が確保できたと思えば、残業時間減はプラスに捉えることができるだろう。
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楠山拓己 楠山拓己

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