2016年11月2日 更新

果たして解雇は増加するのか? 「解雇の金銭解決制度」導入の背景に迫る!

安倍内閣が推し進めている「働き方改革」。改革を断行するには、関連法律の改正が肝になる。現状、日本はアメリカなどと違い正規従業員をやすやすと解雇することはできない。ところが、「解雇の金銭解決制度」が導入されれば、「お金さえ払えば解雇も可能になる」という懸念も労働者から聞かれる。この記事では、「解雇の金銭解決制度」について解説する。

「解雇の金銭解決制度」が議論される背景

画像素材 - PIXTA(ピクスタ)

現在の法制度上、正規従業員を合理的な理由なく解雇することはできない。労働契約法に従うと、解雇するには「客観的理由」と「社会的相当性」が要求される。これを法律専門用語では「解雇権乱用法理」という。

つまり、「嫌いだから」とか「仕事ができないから(程度によるが)」などといった主観的な理由では解雇できないということだ。この「客観的理由」と「社会的相当性」は、裁判所が判断することになる。

正規従業員にとって、解雇されないということは、長期に渡り安定して働けるというメリットになる。しかし、それは企業にとって、人件費をコントロールできないというデメリットに変わる。人件費を固定費ではなく、変動費に変えることができれば経営者としては楽だろう。

「解雇の金銭解決制度」は不当解雇の労働者を救う制度でもある

残念ながら、中小企業を中心に不当解雇は一定程度存在する。中小企業の社長の多くは、労働法の知識はなく、何が違法行為なのか認識していないケースも見られる。

従業員が不当解雇に遭うと当然のことだが生活に困窮することになる。不当解雇を取り消すよう迫って、職場復帰が叶ったとしても周囲との信頼関係が一度崩れた以上、やり直すことは難しいケースも多いだろう。

このようなケースでは、従業員が一定の金銭補償を受けたほうが満足することも考えられるだろう。つまり、職場復帰だけが選択肢ではないという話だ。

問題は「いくら払うか」である。この補償金の基準が議論の中心だ。アメリカやイギリス、ドイツなどの諸外国では、補償金の上限を年収の1~2年分と規定している。

補償金の支払いで倒産の危機に直面する可能性も

年収の1~2年分ということは、年収400万円の従業員の場合、400~800万円となる。復職するよりは、まとまったお金を受け取ったほうがよいと思うのは筆者だけだろうか。

筆者の知り合いの経営者は、不当解雇を理由に従業員から裁判を提起された。結果、敗訴し800万円もの補償金を支払うよう命じられたという。

幸いすぐに支払えるだけの余力があったため、事なきを得たが、経営難の中小企業の場合、補償金を負担できずに倒産する可能性もあるだろう。従業員を救うべきか、会社を救うべきか。裁判所は、難しい判断を迫られるだろう。

日本型雇用制度の崩壊も「解雇の金銭解決制度」導入を後押しする

今でこそ、転職が一般的になりつつあるが、かつて転職する人はあまり多くはなかった。年功序列型の日本型雇用制度のもと、多くの従業員は一社に骨を埋めていたのである。

しかし、時代の流れがより一層早まり、ビジネスモデルの陳腐化も目立つようになってきた。こうしたなか、従業員を長期に雇い続けることが難しくなってきた。

もちろん「解雇権乱用法理」がある以上、解雇はできない。しかし、経営難によって会社が潰れてしまっては元も子もない。「解雇の金銭解決制度」があれば、リストラもしやすくなる。経営の自由度が高まるというメリットが企業側にはある。

転職支援、能力開発支援が重要

たとえ解雇されたとしても、すぐに転職できる環境があれば安心かもしれない。そのために必要なのが転職支援と能力開発支援だ。

転職したことがない人にとって、転職は当然未知のもの。自分の能力がどのようなものなのか、判断さえつかないケースも多い。このような場合、転職しようにもエントリーシートを書き上げることも難しいだろう。

転職支援は、自己分析やキャリアの棚卸しなどをキャリアコンサルタントなどが行うことで、自分の“強み”を確認、転職に導くものだ。

能力開発支援は、企業から求められている能力を身に付けさせるサービスのこと。近年、介護職に就くための職業訓練が盛んになりつつある。介護職の求人倍率は、東京や愛知、大阪などの人口集中地帯では3倍を超えている。

このようなサービスを受けることで、たとえ未経験の職種であっても転職しやすくなる。需要の高い職種に労働者の転職を促すことで、失業者が減るだろう。

やっぱり重要なのはキャリアプランと能力開発

「解雇の金銭解決制度」が導入されても「解雇権乱用法理」が厳格である以上、社会は大きく変わることはないのではないか、というのが筆者の見方だ。

とはいえ、解雇に直面したとき、右往左往しないように準備だけはしておきたい。そのためには、キャリアプランを立て、能力開発を自主的に行うことが重要だ。

仕事を真面目にやっていても解雇される可能性もあるだろう。私たちは、柔軟な考えを持つ一個人として、職業生活をどのように組み立てたらよいか常々考えておくべきだろう。
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楠山拓己 楠山拓己

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